株式会社グリスタ 代表取締役 斎藤 利

  • 遺伝子活用

#7 遺伝子検査を活用できるトレーナーが少ない3つの理由

皆さんこんにちは、株式会社グリスタの斎藤です。

 

遺伝子検査から分かる体質情報は、次世代ヘルスケアとしてトレーニングや食事の指導で広がりを見せてきています。

 

ですが日本では、まだまだ遺伝子検査を使いこなせる専門指導者が多くはありません。

医療の現場では医師が治療に活用することが先行して広まっていますが、ヘルスケア業界では体質情報に基づいた次世代ヘルスケア(個別化ヘルスケア)としてトレーナーの方々の活用が進んでいません。

 

実はスポーツやフレイル予防やダイエットなどの健康促進では、トレーナーより医師や管理栄養士のほうが取り組んでいる方の数が圧倒的に多いです。

 

フィットネスクラブやパーソナルジム、コンセプトジムなど今では多岐にわたる特徴的なジムが広がっています。

そこでは主にトレーナーの方が指導にあたっていますが、なぜトレーナーがトレーニングの個別化・最適化で遺伝子検査を活用する機会が多くないのでしょうか。

 

これを読んでいる方の中には「遺伝子検査取り入れてるジムは増えてると思うけどな?」と思った方もいらっしゃるかと思います。

 特に「糖質・脂質・タンパク質(※)」の代謝に関わる遺伝子検査をするとおすすめのダイエットやトレーニング、食事が分かる、といった検査を導入している店舗は増えていると感じているのではないでしょうか。

 ※UCP1、β2-AR、β3-ARの3遺伝子から構成されることが多く、洋ナシリンゴバナナや動物などに分類される肥満関連遺伝子検査

 

今回は、遺伝子検査を導入するジムが増えている背景も非常に大きな要因のひとつになるので、含めた形で書いてみたいと思います。

大きく考えられる理由としては、以下の3つが挙げられます。

 

理由1【DTC遺伝子キットの広がり】

理由2【課題感とコストパフォーマンス】

理由3【先端研究成果を扱いこなす難しさ】

 

それぞれの理由について説明していきます。

 

【理由1:DTC遺伝子キットの広がり】

DTC遺伝子ビジネスでは、検査キットがエンドユーザーに直接販売されています。

これは専門家が個別化・最適化をすることを前提にされておらず、その用途に合っていません。先に少し紹介した肥満遺伝子を例に説明してみます。

 

結論からいうと、この遺伝子はすでに科学的根拠が乏しいことが2014年に発表された研究により明確になっていますが、よくDTC遺伝子キットとして通販や店舗で販売されています。

そもそもの科学的根拠が乏しいので、専門家が提供する専門指導の参考にするに値しないことは明白です。

 

DTC遺伝子キットの多くは「どんなダイエット・トレーニング・食事がおすすめです」のような「方法」を答えとして提供しているため、エンドユーザーにも分かりやすく、トレーニング指導するトレーナーさんが活用しやすいのかもしれません。

 

これは一例ですが、このような検査キットが日本では法的規制がなされないまま長年続いてきたことにより、遺伝子検査の情報を適切に把握して専門指導に生かす「個別化ヘルスケア」が広まってこなかったという背景があります。

トレーナーの間で広まってこなかったのは、医師や管理栄養士に比べてトレーナーは「ジム」という分かりやすいビジネス形態の中でビジネスについて考えることが多く、科学的根拠の質や精度よりも、売りやすさや分かりやすさに意識が行くことが多かった結果だと考えています。

 

 

【理由2:課題感とコストパフォーマンス】

遺伝子検査は次世代検査と言われていたり、次世代ヘルスケアに欠かせなくなるものだとよく言われていますが、その分まだなじみの無いものでもあります。

世界的な流れで見るとパラダイムシフトが起きている真っただ中にありますが、日本では先述したようにまだまだこれからという段階です。

 

インターネットが普及しはじめた1990年~2000年代頃、これをツールとして使いこなしている人は多くありませんでした。

30年近く経ち、今では信じられないくらい身近でなくてはならないものになってきています。ヘルスケア業界では体組成計などがそれに近しいものかと思います。20年くらい前は「体脂肪率」と聞いてもピンとこなかったことを覚えていますが、今では誰でも知っている言葉ですし、どのジムにも体組成計が当たり前のように導入されています。

 

この体組成計も初めから誰でも使いこなせていたわけではなく、うまく使える人が少しずつ増えていき、事例が浸透し、今のように広がってきました。

 

遺伝子検査もトップアスリートの指導や一部のヘルスケア指導で活用が進む中で、なぜトレーナーにはそこまで広がっていないのでしょうか。

 

それは「顕在ニーズに対応できているから」ということかと感じています。

栄養指導はそれ単体ではほとんどお金を払ってまで受けたいというニーズはありません。しかし体質に合わせた個別化栄養指導になると、1時間で数万円のサービスが喜ばれるという現象が起きています。

 

トレーニングはすでにパーソナルジムやコンセプトジムなどニーズが顕在化していて、個別化する必要もなくお客様がやってくる状況です。

しかも受容体の働きやホルモンの影響など難しいことを考える必要もなく成り立っているので、課題が顕在化していない中でそれを学ぶ・考える・指導に落とし込むという一連の手間を考えると、「そこまでやらなくても」=「コストパフォーマンスが合わない」と判断されることが多いと感じています。

 

 

【理由3:先端研究成果を扱いこなす難しさ】

これはシンプルに、医師や管理栄養士に比べて、トレーナーの知識レベルにはばらつきがあることが要因にあるということです。

国家資格として名乗れるものと、民間資格はあるもののそれを持っているいないに関わらず「トレーナー」と名乗れること、この差は大きいと肌で感じています。

 

遺伝子検査は「個人差・個体差」を把握するものなので、それだけでどんなトレーニングが良いか、何を食べれば良いか、という答えは出ません。出してはいけません。

 

ですが、トレーナーの方と話していると圧倒的に「結果から何を指導すれば良いのか教えてほしい」と言われる機会が多いです。

医師は100%の確率でその発言はしません。管理栄養士はときどきそうおっしゃる方はいますが、多くはありません。トレーナーは圧倒的に多いです。

 

個人の体質を把握したら、指導の最適化に生かせるという趣旨のものです。

そのため「指導」に必要な知識レベルや専門性がなければ、遺伝子検査の結果に振り回されることになるのですが、その現象はこのように「検査結果から方法の答えが出てくる」ものと思っている場合によく起きます。

 

このような先端的な情報を扱うには、まだ前例が少ないのでマニュアル化されておらず、知恵を絞って試行錯誤しながら個別化・最適化を進める必要があります。トレーナーは知識レベルのばらつきによりうまく使いこなせない場合が目立ち、「使えなかった」という声が挙がるため、広まりが早くないのではないかと感じています。

 

このように、医師や管理栄養士に比べてトレーナーの間での活用が広まりにくい環境にある要因を3つ挙げてみました。

勿論この環境の中でも、うまく個別化・最適化が出来ているトレーナーさんも多くいらっしゃいますし、彼らはトレーニング成果が顕著に出ています。

 

ビジネス領域として基盤があるだけに、トレーナーの方々にはうまく遺伝子情報を活用してもらいたいなと願っています。


 

本日は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました!

 

株式会社グリスタは、日本唯一の遺伝子情報を活用した業務用個別化ヘルスケアサービス「IDENSIL(イデンシル)」を960社以上のヘルスケア事業者様(パーソナルジム、スポーツドクター・トレーナー・指導者、管理栄養士、エステなど)に提供しています。

株式会社グリスタ 代表取締役 斎藤 利

株式会社グリスタ 代表取締役 斎藤 利

1979年生まれ/和歌山県出身/工学修士学生時代は竜巻のメカニズムを研究。2010年バレーボール個人指導スクール設立をきっかけに、個人の体質によるパフォーマンス影響に着目。2015年より遺伝子業界へ。2018年、日本で初めて専門事業者の指導やヘルスケアソリューションを個別化することに特化した業務用遺伝子分析サービス「IDENSIL」を開発・リリース。内閣官房が進めるレジリエンスジャパン推進協議会のWG委員選出や自治体との連携、日本を代表するトップアスリートの指導者への遺伝子情報提供を通じ、ヘルスケアから美容まで幅広い個別化に携わっている。

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