#3 遺伝子検査 「精度」の正体とは?
皆さまこんにちは。
グリスタの斎藤です。
前回から大分時間が空いてしまいました。お待ちくださっていた皆様、申し訳ありません。
今回は、前回少し触れたように検査の「質」という部分について、お伝えしたいと思います。
皆さん、巷で見かける「遺伝子検査精度99.9%以上の高精度」とはどういうことなのか、お分かりでしょうか。
遺伝子にご興味がある方は特に、このような広告を目にしたことがあると思います。
A社「リンゴ・洋ナシ・バナナ型の肥満タイプ分かります!」
B社「糖質・脂質・タンパク質に関する肥満傾向分かります!」
C社「肥満傾向からおススメのダイエットが分かります!」
他にも才能や感性、病気リスクなど様々な種類の遺伝子キットがインターネット等で販売されていますが、上記の文言と併せて「この遺伝子検査キットの精度は99.9%以上で高精度です!」と記載されているものが多くあります。
これがどういうことなのかを説明する前に、そもそも「遺伝子検査」「遺伝子検査精度」等の、遺伝子検査に関連する言葉にはどういった意味があるのか?を紐解いていきたいと思います。
検査とは?
まず「検査」という言葉は、血液検査やレントゲン検査、尿検査などの身体に関わるような検査から、水質検査や食品検査、手荷物検査など品質管理や安全確保に関わるようなものに至るまで幅広く使われています。
例えば、病院だと医師は患者に対して、色々なことを聞いたり調べたりして情報を集めます。そしてその患者に診断結果を伝えたり、どんな治療を施していくかを決めていきます。
その際に行われる血液検査やレントゲン検査などは、医師が診断や適切な治療法を決めるのに必要な「情報を入手するために行う行為」の事を指しますね。
一方で、患者の立場からは「この前足が痛くて病院に行って、レントゲン検査をしたんだよね」という主旨の会話があったとします。
この場合、レントゲン検査で検査結果という情報を得ることだけを意味しているのではなく、医師から診断や治療の判断をしてもらったことまでを意味していることが多いと思います。
分解してみると、「検査」という言葉は、使う人によって、
① 数値などの客観的情報 を入手するために行う行為
② ①に加え、専門家がその情報を元に何かを判断する事
という、二つの意味を持つということが分かると思います。
ちなみに辞書で「検査」を調べてみると、こんな風に説明されていました。
【ある基準をもとに、異状の有無、適不適などを調べること。】
①と②、双方の意味がありそうですね。
では、「遺伝子検査」となると、どのようになるのでしょうか。
実は上述した血液検査やレントゲン検査の例とよく似ています。
レントゲン検査で分解してみたように、辞書で書かれている趣旨で「遺伝子検査」を分解してみるとこうなります。※今回は「SNP(塩基多型)を調べて体質を推定する事」を趣旨として解説
「遺伝子検査」
① 検査そのもの(塩基を調べること)
② ①の結果をもとに、体質を推定すること
レントゲン検査などと同じように、物理的に調べることそのものを指す意味合いの①と、その結果によって体質を推定することを指す意味合いの② が存在します。
塩基配列は、A/T/G/Cの4種の塩基による並びから構成されています。①はラボに検体を送り、特定の場所の塩基を調べることで、その場所の塩基が何だったかを知るということです。ここで得られる情報は、「この場所の塩基を調べたらAでした」というようなものになります。
一方、②はその特定の場所の塩基の型によって、体質を推定することを意味します。
体質の推定は、科学的根拠を基に行われます。塩基配列を調べた結果から体質を推定するためには、研究がなされ、それによる科学的根拠が揃っている必要があるということですね。近年はこのような研究が進んでおり、様々な体質傾向を推定出来るようになってきています。
話を元に戻しましょう。
これまで長々とご説明しましたが、冒頭の「遺伝子検査精度99.9%以上の高精度」とはどういうことなのか。勘の良い皆さまはもうお分かりでしょう。
この99.9%という数字は、①のことを意味していることが多いのです。
「Aという塩基をAと正確に解析できる検査精度」ということですね。
②の体質を推定する精度は、高ければ高いほど、個人差への当てはまりの度合いは大きくなっていきます。
例えば同じ部活で、同じ時間同じ負荷の筋トレをしたA君とB君がいたとします。同じ筋トレ成果が出るとは限りませんよね。これは「個性」が存在し、その個性は「遺伝的体質」の影響も多く受けているからです(もちろん生活習慣等、他の要因もあります)。
②の体質を推定する精度が高ければ、事前にA君とB君の筋トレ影響の差を理解できるようになり、その上で個人に合ったトレーニングメニューを組む事ができれば、A君とB君はもっと活躍できると思いませんか?
体質推定は、先述したように「科学的根拠の質が高いほど、体質推定を精度良く出来る」ので、逆に体質推定の精度が低いということは「参考とする科学的根拠の質が低い」ということになります。
例えば、人種間の因果関係の異なりを考慮出来ていなかったり、参考とする文献の質がそもそも低かったりすることで、解釈の誤認や読み違えが起きてしまって精度が低くなることに繋がってしまうケースです。
冒頭のA~C社の例は全て、この体質推定の精度が低い(というか無い)事例を挙げています。この3例でよく使われている「3つの肥満関連遺伝子」は、既に肥満への関連が否定されている遺伝子です。ただこの3つの遺伝子は存在していますし、勿論その塩基多型を調べることも可能です。塩基多型を物理的に調べる検査精度は高い、と謳うことは出来るということですね。
こうして「物理的に調べること」と「体質を推定すること」に分けて考えると、なぜ「検査精度が99.9%以上で高精度」という訴求をしたいのか、訴求する側の事情を考えることができますね。
長くなりましたが、「遺伝子検査」の解釈と精度について説明させて頂きました。
遺伝的体質を基にパーソナライズされた指導に活かす際には、是非参考にしてみてください。
次回は実際にIDENSILを活用してくださっている事業者様をご紹介予定です。
どうぞお楽しみに!
株式会社グリスタ 代表取締役 斎藤 利
1979年生まれ/和歌山県出身/工学修士学生時代は竜巻のメカニズムを研究。2010年バレーボール個人指導スクール設立をきっかけに、個人の体質によるパフォーマンス影響に着目。2015年より遺伝子業界へ。2018年、日本で初めて専門事業者の指導やヘルスケアソリューションを個別化することに特化した業務用遺伝子分析サービス「IDENSIL」を開発・リリース。内閣官房が進めるレジリエンスジャパン推進協議会のWG委員選出や自治体との連携、日本を代表するトップアスリートの指導者への遺伝子情報提供を通じ、ヘルスケアから美容まで幅広い個別化に携わっている。