#86 個別最適化を“属人化”させないために、ヘルスケア事業者がやるべきこと―判断軸と共通言語をどう設計するか
【この記事の3行まとめ】
・個別最適化が属人化する原因は、スタッフ個人の能力だけではなく設計にもある
・判断軸と支援プロセスを共有すれば、個別最適化は再現可能になる
・仕組み化は、サービス品質と継続性を支える基盤になる
皆さんこんにちは。
株式会社グリスタ 管理栄養士の根岸です。
今回は、「属人化させない個別最適化」をテーマにお送りします。
以前にも個別最適化について触れましたが、ヘルスケアの分野でも
「個別最適化」という言葉を目にする機会が増えてきました。
その一方で、個別最適化を掲げるヘルスケアサービスでは、担当者によって
成果や満足度に差が出るケースが珍しくありません。
特定のスタッフが関わると評価が高い一方で、担当が変わった途端に違和感を持たれたり、
説明や提案の分かりやすさにばらつきが生じたりすることがあります。
こうした状況は、現場ではしばしば「スタッフの力量差」として捉えられがちです。
しかし実際には、能力差だけでは説明がつかない場面も少なくありません。
それは、個別最適化という行為そのものが、明確な設計を持たないまま、
担当者の判断に委ねられているケースがあるという点です。
属人化は能力の問題だけではなく、設計の問題もあり
ヘルスケアサービスの現場を観察すると、ヒアリングの進め方や生活背景の捉え方、
提案の切り口や言葉の選び方が、担当者ごとに異なっている場合があることに気づきます。
同じエンドユーザーを前にしても、どこに焦点を当てるか、どのタイミングで
どのような提案をするかの方向性が統一されていないため、支援内容や納得感に差が生まれてしまいます。
もちろん、人によって得意としているサポート分野があったり、アプローチの仕方が異なるのは自然なことですし、
全てを揃える必要はないと思います。
個別最適化において、ある程度の判断や個性が活かされること自体は、決して悪いことではありませんよね。
しかし、何を優先して考えるのか、どこで線を引くのかといった核となる判断軸が揃っていない場合、
その違いは価値ではなく、ばらつきとして現れてしまいます。
共通の判断基準や支援の流れが定義されていない状態では、誰が対応しても属人化は避けられないのではないでしょうか。
個別最適化は「技術」ではなく「プロセス」として捉える
属人化を防ぐためにまず意識したいのは、個別最適化を「特別なスキル」や
「経験豊富な人だけができる高度な技術」として捉えすぎないことです。
現場では、経験年数や肩書きに関わらず、安定して評価されている対応には共通点が見られるケースがあります。
まずエンドユーザーの状況や背景を整理し、現実的に選べる範囲の選択肢を提示したうえで、
その中からどれがベストかを考えていきます。
この一連のやり取りは、個人の経験やセンスに依存したものというよりも、
一定の考え方と順序に基づいた対応と言えるのではないでしょうか。
だからこそ、こうした流れは属人的なものとして扱うのではなく、言語化し、
共有できる支援プロセスとして整理することが可能になると考えています。
個別最適化を「個人の技量」として諦めてしまうのではなく、「現場で再現できる流れ」として
捉え直すことが、属人化を防ぐための重要な視点になります。
「個別」を支えるためのテンプレートという発想
属人化しない個別最適化を実現するために重要なのは、ある程度の「型」を持つことだと考えています。
ここでいう型とは、対応手順を細かく縛るものではなく、扱う情報そのものと、
それをどう読み解くかという共通の考え方を指しています。
例えば、個別最適化の現場では体組成情報や生活に関する情報、
場合によっては遺伝子情報など、さまざまなデータを扱います。
しかし、それらの情報をどこまで重視するか、どの順序で見るか、どの情報を判断の軸に置くのかが
人によって異なっていると、同じデータを前にしてもサービスの方向性は変わってしまいますよね。
そこで必要になるのが、「どの情報をどう捉えるか」という読み解き方を共有することです。
情報そのものを統一するのではなく、情報を見る視点や優先順位を揃えることで、
スタッフごとの思考のスタート地点を揃えることができます。
テンプレートという言葉には、画一的で柔軟性のない印象を持たれることもありますが、今回はその逆です。
扱う情報とその解釈の軸を整理しておくことで、エンドユーザーごとの違いに意識を向ける土台が整います。
この意味でのテンプレートは、個別性を制限するものではなく、個別対応を成立させるための土台として
機能するのではないでしょうか。
共通言語により向上・安定するサービスの質
支援プロセスや判断基準が共通言語として整理されているヘルスケアの現場では、
サービスの質が担当者によって大きくぶれる場面が少なくなります。
パーソナルジムで例えると、まだ経験の浅いトレーナーが、ジムの共通言語がない状態で
イチからそのジム独自の方針やメソッドを学んでいくのと、ある程度共通言語が整理されている状態とでは、
スタート地点が全く違いますよね。
現場での共通認識や方向性がある程度言語化されていれば、経験の浅いスタッフであっても、判断の軸を見失いにくくなります。
属人化を減らす設計は、サービスの質を一気に高めるものではないかもしれません。
しかし、サービスの質を安定させるという点においては、現場で実感されやすい変化のひとつと言えるでしょう。
まとめ
個別最適化は、特定の人の経験や感覚だけに依存して成立するものではありません。
判断軸が共有され、支援プロセスが整理されていくことで、組織として一定の方向性を保つことができます。
全てを同じにすることが目的ではなく、共通の土台があるからこそ、それぞれの専門性や個性が活きてきます。
属人化を防ぐことは、価値を継続的に届けるための前提条件と言えるでしょう。
今日のIDENSIL情報局は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
株式会社グリスタは個別化ヘルスケアに特化した遺伝子分析サービス「IDENSIL(イデンシル)」の開発メーカーです。
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IDENSIL管理栄養士 根岸
IDENSIL(株式会社グリスタ)に所属している管理栄養士の根岸です。 遺伝子活用と栄養に関する情報をお伝えしていきます。 ※IDENSILは、健康な方を対象に遺伝的傾向を把握するためのヘルスケアツールであり、医療的な診断・治療を目的とするものではありません。本コラムでも医療用の遺伝子検査ではなく、ヘルスケア分野での利活用に限定して紹介しています。



